歪ーいびつー
第4章 高1ー春ー
「夢、ほら早く」
「……」
「どうしたの? 」
「……」
目の前に差し出された掌を見つめ、どうしたものかと思案する。
高校へ入学してから早いものでもう二週間が過ぎた。
思えば入学式の日から、奏多くんはこうして私と手を繋ぐ事を強要するようになった。
「……奏多くん。手は……繋がなくても大丈夫だよ? 」
「ダメだよ。夢は手を繋いでいないと危ないんだから」
いつまで経っても差し出した手を握ろうとしない私にしびれを切らしたのか、奏多くんは勝手に私の右手を握るとそのまま歩き始める。
「っ……か、奏多くん」
繋がれた右手を解こうとするも、ニコリと微笑む奏多くんは離そうとしてくれない。
諦めた私は、大人しく手を握られたまま登校することにする。
はぁ……奏多くんどうしちゃったんだろう。
最近少し強引なところのある奏多くんに戸惑う。
そのまま奏多くんと手を繋いで登校した私は、昇降口へ着くと自分の下駄箱を開けた。
ーーー!
……あぁ、ついに始まった。
下駄箱を開けたまま、固まって動かない私に気付いた奏多くんは、「どうしたの? 」といって近づくと私の下駄箱を覗いた。
「あぁ……またか」
「うん……」
空っぽの下駄箱を見た奏多くんが小さく呟く。
奏多くんの言う"また"とはそのままの意味で、私は以前にも同じような事をされた事があるのだ。
それは中学生の頃。たぶん奏多くんと私が毎日一緒にいたから。
奏多くんはカッコよくてモテるから……こんな私が隣にいる事を許せない女の子から嫌がらせをされるのだ。
それは三年間続いた。
頻繁にあるわけではなかったが、それでもやっぱりこんな事をされれば悲しくて辛い。
「ちょっと待ってて」
そう言ってその場を離れた奏多くんは、少しするとスリッパを持って戻ってきた。
私はスリッパを受け取ると、来賓《らいひん》用と書かれたそのスリッパを履いてペタペタと歩き出す。
恥ずかしい……。
チラチラと向けられる周りからの視線に耐え切れず、顔を俯かせると足元を見つめる。
高校でも三年間これが続くのかと思うと悲しくて、私は隣にいる奏多くんに気付かれない様に静かに涙を流した。