歪ーいびつー
第9章 優雨 2
ーーーガラッ
私は扉を開けて保健室に入ると、夢が休んでいるベットの前で立ち止まった。
目の前のカーテンをめくって中を覗くと、そこには泣き腫らした目を瞑《つぶ》り小さな寝息をたてながら眠る夢がいる。
「夢……」
私は小さな声でそう呟くと、静かに眠る夢へと近付いてその顔を覗き込んだ。
夢の頬には涙の跡が残り、閉じられた目の端にはまだ少し涙が残っている。
きっと、つい先程まで泣いていたのだろう。
視線を下に移すと、首に付けられたいくつかの跡が目に入る。
「夢……夢……ごめんね」
私は夢の頬にそっと触れると涙を流した。
「守ってあげられなくて……ごめんね」
そう言うと、私は眠る夢にそっと優しくキスをした。
ーーーガラッ
「ーー夢に何してるの、優雨」
怒りを含んだその声に勢いよく顔を上げて振り返ると、保健室の入り口に立ったまま私を睨みつける奏多と視線がぶつかる。
奏多はこちらへ近付くと私の腕を乱暴に掴み上げ、夢から引き離すと口を開いた。
「夢に近付くな」
「……っ! ……奏多、夢に優しくするって言ったじゃない! もう酷い事はしないって! それなのに……っそれなのに……っ! 」
私の大声で目を覚ました夢が、泣きはらした瞼を擦りながらゆっくりとベットから起き上がろうとする。
「……ん……優雨ちゃん……? 」
「夢、帰るよ。鞄は持ってきたから」
そう言って夢の腕を掴んだ奏多は、目覚めたばかりの夢を強引にベットから引きずり出す。
その光景を目にした私は頭に血が上り、奏多の腕を掴んで大声を上げた。
「やめて! 酷い事しないでよ! 」
奏多は私の手を簡単に振り払うと、そのままズルズルと夢を連れて保健室を出て行こうとする。
「っ奏多く……痛っ……ぅぅっ……っ」
泣き出す夢に目もくれずに歩いてゆく奏多。私はそんな奏多が許せなくて、再び奏多に食らいついた。
「奏多!! 夢を離して! やめて! ……やめてよ! 」
私が必死に止めようとしても奏多の歩みは止める事ができず、ついに私達はもつれるようにして廊下へと出てしまった。
「ーー何やってるんだよ! 」
突然聞こえた声に、一瞬だけ奏多の歩みが遅くなる。
ーーその次の瞬間、楓が奏多の肩を掴んで奏多の動きを完全に止めた。
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