歪ーいびつー
第15章 ー6月ー 2
目の前にいる奏多くんの背中が、見る見るうちに真っ赤に染まってゆく。
一体何が……何が起こった……の……?
突然の出来事に、処理しきれない私はただ呆然と目の前の奏多くんを見つめた。
ーー次の瞬間、隣りにいた朱莉ちゃんが悲鳴を上げた。
「あんただけは絶対に許さない!! 」
そう叫んだ優雨ちゃんが、今度は奏多くんの正面からぶつかった。
「夢には……夢には絶対に近付かせない! 」
そう言って一度奏多くんから離れた優雨ちゃんの手には、血に染まったハサミが握られている。
「ぁ……っ……ぁっ……ぁ」
私は身体をガタガタと震えさせながら、それでも優雨ちゃんから目を離せないでいた。
優雨ちゃんがまた奏多くんに向かって歩みを進めたその時、私は大きな胸に抱きしめられて視界を閉ざされたーー。
やっと今の状況を理解してきた時、私の耳に聞こえてきたのは、「夢ちゃん、見ないで。見ちゃダメだよ……」と囁く楓くんの声だった。
朱莉ちゃんや優雨ちゃんが叫んでいる声は遠くの方でボンヤリと聞こえるのに、やけにクリアに耳に入ってくる楓くんの声。
私は堪らず大声を上げて泣き叫ぶと、床に崩れ落ちていった。それを追うようにして、私をしっかりと抱きとめてくれた楓くん。
私は震える手で楓くんの背中にしがみつくと、目の前の光景や音を遮断するかのように、ただーー大声を上げて泣き続けた。