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歪ーいびつー

第15章 ー6月ー 2



「ーー夢」

あれから数分経過したのかーーあるいは数秒しか経っていないのか。突然呼ばれた声に、私は楓くんの肩口から声の方へと視線を向けた。すると、優雨ちゃんがニッコリと微笑んで私を見ている。

「ごめんね、夢。私……夢から大切な人を奪ってしまった……本当にごめんなさい。今まで一緒にいてくれてありがとう」

涙を流す優雨ちゃんは、最後に優しく微笑むとゆっくりと教室を出て行った。

「ーー朱莉ちゃん! 」

楓くんが声を掛けると、ガクガクと震える身体で呆然と立ち尽くしていた朱莉ちゃんが、ゆっくりとこちらを振り返った。

「……っ奏多がぁ……っ……奏多がぁぁ! 」

私達を視界に捉えた朱莉ちゃんは、堰《せき》を切ったように泣き出した。

「うん、わかってる。俺は救急車を呼ぶから……朱莉ちゃんは夢ちゃん連れて優雨ちゃん探して」
「えっ……なっ……何……で……? 」
「二人にこの現場を見せたくないから。それに……優雨ちゃん探さないと危ないよ、きっと死ぬ気だと思う」
「えっ? ……っ」
「そんなの嫌でしょ? だから探してきて」

朱莉ちゃんと楓くんのやり取りをボンヤリと聞いていた私は、まだ震えて力の入らない身体を楓くんに支えて貰いながら立ち上がった。

「夢ちゃん、しっかりして。優雨ちゃんを救えるのは夢ちゃんだけだよ」

視点の定まっていなかった私は、その言葉で楓くんにゆっくりと視線を合わせた。
悲しそうに微笑む楓くんを見た私は、止まらない涙を拭うと小さく頷いた。
朱莉ちゃんとしっかり手を繋ぎ、お互い力の入らない身体を支え合うようにして頑張って足を動かす。
……優雨ちゃんを探さないと。
私はその思いだけで、震える身体を動かして教室を後にした。



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