歪ーいびつー
第15章 ー6月ー 2
体力のない私は、息が切れそうになりながらも懸命に階段を駆け上がる。
ーーーバンッ!
屋上の扉を勢いよく開くと、目の前にいる優雨ちゃんに向かって大きな声で叫んだ。
「優雨ちゃんやめてぇぇぇーー!! 」
私の声に気付いた優雨ちゃんは、ゆっくりとした動きで後ろを振り返った。
屋上はフェンスで二重に囲まれ、その更に外側には腰丈程の柵がある。
優雨ちゃんはーーその柵の外側に立っていた。
痛みのない綺麗なセミロングは風に靡《なび》いてユラユラと揺れ、優雨ちゃんの流す涙は太陽に照らされてキラキラと綺麗に輝いていた。
私を捉えた優雨ちゃんの瞳はとても優しい色をしていてーー思わず見惚れてしまう程に綺麗だった。
「ーー愛してる」
優雨ちゃんはそう笑顔で告げると、掴んでいた柵を離し両手を広げた。
ゆらりと揺れる身体。
雲ひとつない綺麗な青空が広がり、まわりの音さえ何も聞こえない。
それはやけにスローモーションで。
ふわりと後ろへ傾いてゆく身体。
ゆっくりーーゆっくりと。
まるでこの綺麗な空へ飛んでゆくかのようにーー。
どうして私達はこうなってしまったのだろう。
いつから……いつからこうなってしまったのだろう。
あの頃に戻りたいーーあの頃に。
「ーーい゛やあぁぁぁぁぁぁー!!!! 」
空気を裂くような絶叫に、遮断されていた音が一気に蘇る。
「いやぁぁー!! ……いやぁぁぁぁー!!! ぅっ……グッ……なんでっ……なんっ……でぇ……なんでぇ……っ……」
力を無くした足は、立っている事ができずにその場に崩れ落ちた。
少し熱を持ったアスファルトに掌をつくと、その手をキュッと握りしめる。握りしめた掌のすぐ横のアスファルトには点々と模様ができ、それは徐々に大きなシミとなっていった。
「どうしてっ……ぅっ……ぅぅっ……どうしてぇぇぇーー!!! 」
悲痛な叫び声は虚しく響き渡り、行き場を無くした声はただ空へと消えていった。
なんで? どうして?
何度叫んだところで、その答えは返ってくるわけもなくーー。
ただ、遠くで微かな鈴の音が聞こえるだけだった。
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