
美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜
第15章 君とハッピーバレンタイン
ーーバレンタイン当日。
人もまばらになった放課後の教室で、彩奈の席の前で立ち止まった私は、一度小さく息を吐くと彩奈に向かって声を掛けた。
「ーー彩奈」
その声に反応して、ゆっくりと顔を上げて私を見た彩奈。
心なしか、その表情は少し緊張して見える。
机の横に掛けられた紙袋をチラリと見た私は、彩奈に向けて優しく微笑むと口を開いた。
「今から……渡しに行くんだよね? 」
「……うん」
やはり緊張しているのか、彩奈はぎこちない笑顔を作って小さく頷く。
「そっか……頑張ってね、彩奈」
「うん、ありがとう」
そう言ってニッコリと微笑んだ彩奈。
結局、私が彩奈にしてあげられる事といったら、こうして「頑張れ」と声を掛けてあげる事以外に何もないのだ。
あとは、お兄ちゃんと彩奈が上手くいくように祈るだけ。
目の前で可愛らしく微笑む彩奈を見て、私は心の中でそんな風に思う。
「ーーかのーんっ! 」
ーーー!?
突然ガバッと後ろから抱きしめられ、ビクリと肩を揺らして驚いた私。
背後から仄《ほの》かに香る心地よい匂いに、私は小さく安堵の息を吐くと後ろを振り返った。
「……もうっ……ひぃくん、驚かさないで」
「ごめんねー」
フニャッと笑って小首を傾げたひぃくん。
頬を膨らませて怒る私を見て、クスクスと小さく声を漏らす。
「まだ帰らないの? 早く花音のチョコ貰いたいなー」
帰宅してから渡すと予め伝えてあった私のチョコ。
それが余程楽しみなのか、ひぃくんはニコニコと微笑みながら私の顔を覗き込んだ。
「うん……もう少しだけ待ってて、ひぃくん」
「うん」
私の言葉に、ニッコリと笑って答えたひぃくん。
何も協力ができないなら、せめてお兄ちゃんのところへ行く彩奈を送り出してから帰りたい。
……きっと今の彩奈は、不安と緊張で一杯だろうから。
