
美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜
第16章 何度でも、君に恋をする
私はそっと顔を上げると、その腕の主に向かって口を開いた。
「お父さん……っ苦しい……っ」
「……花音っ……花音……っまたこんなに可愛いくなって……っ。お父さん……寂しかったよぉ……っ」
鼻水を垂らしながら泣きじゃくるお父さんは、そう言って私をギュウギュウと抱きしめる。
ーーー!!?
「いっ……嫌ぁーっ! 」
はっ、鼻っ……鼻水が垂れるーっ!!
間近に迫ったユラユラと揺れる鼻水を見て、私の目は驚きに見開かれる。
必死にお父さんを押し退けようとするも、ガッチリと抱きしめて離してくれない。
お陰で私の涙はすっかりと渇いてしまった。
中々離れようとしないお父さんと格闘していると、リビングの入り口からお兄ちゃん達が入ってくるのがチラリと見える。
「……あっ! 彩奈っ! 」
私のその声に、ピタリと動きを止めたお父さん。
チラリと頭上を見てみると、さっきまでの鼻水は何処へやら、すっかりと涙を引っ込めたお父さん。
何事もなかったかの様な顔でお兄ちゃんを見ている。
「ーー翔、久しぶりだな。花音の事ありがとな。元気にしてたか? 」
「あ……うん。お帰り……」
爽やかな笑顔を見せるお父さんに、若干顔を痙攣《ひきつ》らせたお兄ちゃん。
たぶん、あの一瞬の出来事を見ていたのだと思う。
私達の前ではすぐ泣くくせに、彩奈やひぃくんの前では絶対に泣かないお父さん。
まぁ、それがわかってたから彩奈の名前を呼んだんだけど。
一体どんな忍法よ……。
一瞬で涙を引っ込めるなんて、そんな技ができるのはひぃくんとお父さんぐらいだ。
爽やかな笑顔で話すお父さんの横で、安堵した私は小さく息を吐く。
……もうダメかと思った。
もう少しで鼻水が……私に垂れるとこだったよ……。
顔面間近に迫った鼻水を思い出した私は、その恐怖からブルリと身体を震わせた。
