キャンディータフト(短編)
第1章 キャンディータフト
「ひよ、こっち」
校舎に向かっていた大ちゃんが、突然入り口とは別の方へと歩き出し手招きをする。
どうしたのかな?
そう思いながらも黙って後を追う。
校舎に沿って歩く大ちゃんの背を見つめながら歩いていると、突然大ちゃんが口を開いた。
「良かった、もう咲いてる。ほら、ひよ見てごらん」
目の前で立ち止まった大ちゃんの横まで近寄ると、その視線を辿ってみる。するとそこには、白やピンクや紫の花びらを付けた、とても綺麗な花が花壇に咲いていた。
「わぁ……! 綺麗! 」
瞳を輝かせる私を見てクスリと笑った大ちゃんは、花壇の前にしゃがむと口を開いた。
「……この花、覚えてる? 」
「うん……キャンディータフト」
優しく微笑む大ちゃんに、私は笑顔で答えた。
忘れもしないーー大ちゃんが私にくれた花だから。
枯れない花が欲しいと言った私に、大ちゃんはキャンディータフトを押し花にして栞にしてくれた。
あれは確か小学四年生の頃。
少し歪《いびつ》な形をしたその栞は、不器用な大ちゃんが私の為に一生懸命作ってくれたんだと、私は子供ながらに凄く嬉しく思ったのを覚えている。
今でも大切に持ってるよ、なんて恥ずかしくて言えないけど……私の宝物。
大ちゃんも覚えててくれたんだと、私は心が温かくなるのを感じた。
大ちゃんは、この花言葉を知っているのだろうか?
当時、栞を貰った私は嬉しくてキャンディータフトをたくさん本で調べた。
そんな昔の自分を思い出し、フフッと微笑む。
「どうかした? 」
花を見て小さく笑った私に、大ちゃんは不思議そうに首を傾げる。
「ううん、何でもない。綺麗だね」
「うん。ひよと一緒に見れて良かった」
笑顔で答える私に、大ちゃんはとても優しく微笑み返すと、そう言って目の前の花へと視線を移した。