キャンディータフト(短編)
第1章 キャンディータフト
ーーー!
突然聴こえて来たピアノの音に、私は後ろを振り返ると口を開いた。
「瞳ちゃんかな? 」
「きっとそうだね、行ってみる? 」
私は笑顔で頷くと、大ちゃんに付いて音楽室へと向かった。
小さい頃からピアノの得意だった瞳ちゃんは、よく私のリクエストに応えてピアノを弾いてくれていた。
一度も島を出た事のなかった私には、片道一時間半もかけてピアノを習いに行く瞳ちゃんは憧れでもあった。何度もせがむ私に、嫌な顔一つ見せずにピアノを弾いてくれていた瞳ちゃん。
そんな瞳ちゃんも、高校生になるとこの島を離れてしまった。
久しく聴く事のできなかったピアノの音に、私は心を躍らせた。
音楽室の前へ着くと、開けられたままの扉から中を覗いてみる。
ーーその光景に、私は思わず目を奪われてしまった。
決して立派なピアノではないのに、瞳ちゃんが弾くとこうも華やいで見えるものなのか。暫く立ち尽くして眺めていると、こちらに気付いた瞳ちゃんがピタリと手を止めた。
「ごめん、煩《うるさ》かった? 」
申し訳なさそうに笑顔を向ける瞳ちゃん。
「こっちこそ、邪魔してごめん」
「煩《うるさ》くなんてないよ、もっと聞きたいな」
私達がそう言うと、瞳ちゃんはフワリと微笑んで口を開いた。
「何かリクエストある? 少し調律が狂ってはいるけど……まぁ、問題なく弾けるから」
その言葉にパァっと笑顔になった私は、勢いよく口を開いた。
「ショパンの「「ノクターン」」
被った声に隣を見れば、大ちゃんがクスリと微笑む。
昔から私が必ずリクエストしていた曲。
この曲を聴くのはどれぐらいぶりだろう……。