キャンディータフト(短編)
第1章 キャンディータフト
「日和の好きな曲だね」
瞳ちゃんはそう言って優しく微笑むと、鍵盤に手を置きピアノを弾き始めた。
私達は近くにあった椅子に座ると、瞳ちゃんの弾くピアノを黙って聴いたーー。
その音色はとても穏やかで優しく、私は気付くと涙を流していた。
久しぶりに聴けた瞳ちゃんのピアノに、嬉しく思う気持ちと同時に何故か悲しくもなったのだ。
高校生になって皆バラバラになってしまったから……。懐かしい昔に思いを馳《は》せ、きっと寂しくなってしまったのだ。
隣で涙を拭う私を見て、大ちゃんは少し寂しそうな笑顔を見せる。心配させたくなかった私は、涙を拭き終わるとニッコリと笑って大ちゃんを見た。
それに安心したのか、大ちゃんは優しく微笑むと瞳ちゃんへと視線を移し、そのまま演奏が終わるまで私を見る事はなかったーー。
ーーーパチパチパチパチ
「瞳ちゃん、ありがとう」
「ありがとう、久しぶりに聴けて良かったよ」
拍手をしながら感謝を伝えると、瞳ちゃんは「どういたしまして」と優しく微笑む。
「じゃあ、もう行くね」
「もう一曲聴きたいなぁ」
「暗くなる前に他も見なきゃ」
困った様に微笑む大ちゃんに、私は後ろ髪引かれる思いで椅子から立ち上がった。
「瞳ちゃん、また今度聴かせてね」
「じゃあ、また後で」
そう言って私達が手を振ると、少し不思議そうな顔をした瞳ちゃんが小さく手を振り返してくれた。