キャンディータフト(短編)
第1章 キャンディータフト
音楽室を後にした私達は、再び並んで廊下を歩いて行く。
古びた木造建ての校舎は所々が脆《もろ》く崩れ、窓からは隙間風が吹き込んでいる。そんな老朽化の進んだ校舎でも、私はとても好きだった。
特に、歩く度に軋《きし》む廊下が私のお気に入り。
この学校が無くなってしまうなんて、やっぱり凄く寂しい。
「学校が無くなるのはやっぱり寂しいね」
隣を見ると、そう呟いた大ちゃんが寂しそうな顔をする。
「うん……」
大ちゃんも私と同じ思いでいてくれたんだと、少し嬉しく思いながら返事をする。
「俺は中一の一学期までしかいなかったけどさ。やっぱり寂しいよね、母校がなくなるのは」
「そうだね。私……大ちゃんと一緒に卒業したかったな」
溢《こぼ》れ出た本音に、ハッとして大ちゃんを見る。
「ひよ……」
「……」
辛そうな表情で見つめてくる大ちゃんに、目を逸らせなくなった私は黙って見つめ返した。
「俺も……。ひよと一緒に卒業したかった。ずっと側にいてあげたかった」
今にも泣き出しそうな顔をする大ちゃんに、焦った私は慌てて笑顔を作った。
「しょ、しょうがないもんね。お父さんの仕事の都合で引越しになっちゃったんだから」
決して大ちゃんを責めている訳でもなければ、こんな辛そうな顔をさせたかった訳でもない。
何とかこの空気を変えようと、私は焦りながら思案する。
「あっ……」
目に付いた少し色の変わった壁板に近付くと、そのままその場にしゃがみ込む。
壁の下側にある色の変わった五枚分の板。
「ほら、大ちゃん」
ニッコリと笑って振り返ると、大ちゃんは笑顔で口を開いた。
「そんな事も覚えてたんだね」
私の隣にしゃがんだ大ちゃんは、懐かしそうに壁に触れた。
昔はこの板を軽く叩くと簡単に外れ、外へ通じる穴となった。
ここは、大ちゃんの秘密の近道。先生に見つかっては怒られ、それでも暫くするとまた大ちゃんはここを使っていた。
『今日も見つかっちゃったよ』と悪びれた様子もなく笑顔で話していた大ちゃんを懐かしく思う。
「張り替えられちゃったんだね。まぁ、流石にもう通れないけど」
「大ちゃん凄く大きくなっちゃったもんね」
クスクスと笑いながら話す大ちゃんを見て、和やかな空気に戻った事に安堵する。