キャンディータフト(短編)
第1章 キャンディータフト
夏休みに入り、お父さんの仕事の都合で大ちゃんが転校すると聞かされた時には、私はショックで号泣した。
『離れたくない』
そう言って泣く私に、大ちゃんはそっと抱きしめてくれると、冬休みには絶対に会いにくるからと約束してくれた。
引っ越し前日、病室に一人で来てくれた大ちゃんは、そっと私の手を握ると口を開いた。
『ひよ、俺が医者になってひよの病気治してあげるから。だから絶対に負けちゃダメだよ』
その言葉に、私は涙を溜めながら笑顔で頷いた。
私の返事に優しく微笑んだ大ちゃんは、病室を去ろうと立ち上がった。そんな大ちゃんを震える手で掴んで引き留めた私は、涙を流しながら口を開いた。
『大ちゃん……もし私が死んじゃったら……必ず会いに行くから。だから……その時は私を見つけてね』
そう告げると、顔を歪めた大ちゃんは私をキツく抱きしめた。
『ひよ……そんな事言わないで。大丈夫、絶対に大丈夫だから……』
そう言って私の肩を涙で濡らしたーー。
それからの私は、冬休みに大ちゃんと会う約束を楽しみにして過ごした。
十一月になると、更に体調の悪くなってしまった私は皆と会う事もできなくなってしまった。
急激に弱っていった身体に苦しみながらも、私はただ大ちゃんに再会できる事を願って頑張った。
冬休み前の十二月、大きな発作で胸が苦しくなり呼吸ができなくなる。
急に辺りが慌ただしくなり、先生や看護師さん達の焦る顔が目に映る。
泣いているお父さんお母さんが病室から外へ出される姿。そんな光景がやけに鮮明に視界に入ってくる。
朦朧《もうろう》とする意識の中、私は大ちゃんを想い一筋の涙を流した。
まだ死ねない……。
あともう少し頑張れば大ちゃんに会える……。
そう思いながらそっと目を閉じると、私の意識はそこでプツリと途絶えたーー。