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キャンディータフト(短編)

第1章 キャンディータフト



そのまま大ちゃんと二人で校庭に出た私は、窓から見えた大きな木に目を向けると足を止めた。
教室からはよく見えなかった花も、こうして近くで見ると綺麗に咲いているのが良く見える。一つ一つは小さく可愛らしい花でも、満開に咲き誇っている姿はとても立派で、力強い生命力を感じる。

立ち止まる私に気付いた大ちゃんが、私の視線の先にある桜の木を見て口を開いた。

「……綺麗だね。ひよと一緒に見れて良かった」
「うん、凄く綺麗。この木、どうなっちゃうのかな……」

取り壊しの決まっているこの学校は、来月から工事が始まると先程大ちゃんから聞かされた。
この立派な桜の木も一緒になくなってしまうのだろうか。
こんなに生き生きとしているのに……。

「大丈夫。小学校に植え替えするらしいよ」

そう言って私に向かって微笑む大ちゃんに、私は小さく微笑みを返した。
良かった……。
再び目の前の桜の木に視線を移すと、幸福な気持ちで満たされてゆく胸にそっと手を当てる。
本当に凄く綺麗……見れて良かったーー。

「おーい! こっちこっち! 」

突然聞こえた声に視線を少し下へと移すと、桜の木の下にいる人影がこちらに向けて手を振っている。その声につられてこちらへ振り返った二つの人影も、私達の存在を確認すると手を振り始めた。

「皆が待ってる。……行こうか」
「うん」

皆に応えるように笑顔で手を振り返すと、私達は再び並んで一緒に歩き始めた。



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