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娘のカラダは絶賛発育中!頼むからもう少し離れてくれ!

第1章 第一章・父と娘のきわどい関係

 ――さん……
 ――おとーさん…

「おとーさんってば」
 決意を新たにしたところで美鈴に声をかけられ、我に返った。
 美鈴は俺を見上げていた。
 彼女の頭は俺の胸のあたりだから、必然的に上目遣いになる。つぶらな瞳が不思議そうに揺れていた。

「ムッチリ? 白い? 何それおとーさん?」
「え? 俺、そんなこと言ってたか?」
「まさか……他の女の人のこと考えてたんじゃないでしょうね?」
「ば、ばか言え……」
「誰よ? 誰のこと考えてたのよ!」

 美鈴の瞳の揺れは怒りの炎に変わっていた。

 おまえのことだよ、などともちろん言えるわけがない。美鈴を調子に乗せるのは危険極まりない。いい機会だ。美鈴のあきらめを誘うとするか。

「実はな、会社に俺のことを気に入ってくれてる部下がいてな。この部下ってのがえらい美人で。おまえと違って大人の色気ムンムンで――」
「てかおとーさん、いよいよだよ」
 聞けよ、と声を荒げそうになった。が、美鈴の険しい表情が試練の時を告げていることに気がつき、俺は戦慄を覚えた。

 そう。次の駅は魔のターミナル駅だったのだ。

 日本一の乗降客数を誇り、10以上の路線が乗り入れる巨大プラットフォーム。
 俺と美鈴はこのまま、この電車に乗り続けるのだが、信じられない人の数が一斉に移動を始めるため、車内は一瞬にして戦場と化す。降りる人、乗る人の想像を絶するつばぜり合いに巻き込まれ、もみくちゃにされるのは毎日のことだが、少しでも隙を見せると俺と美鈴は離ればなれになってしまうのだ。

「絶対そばにいてね」美鈴が不安そうな声を出す。
「おまえこそ、離れるんじゃねえぞ」俺は美鈴の肩を抱いた。
「おとーさん……」
 美鈴がしがみついてくる。俺の胸に抱きついてくる。当てっている。美鈴の胸が押しつけられている。

 美鈴は娘だ娘だ娘だ、欲情なんてしない欲情なんてしない欲情なんてしない――。
 何度も何度も心の中で唱えていたら、ついにドアが開いた。
 怒濤の人類大移動が始まった。

 押され、引っ張られ、足を踏まれる。背中をどつかれ、髪をくしゃくしゃにされ、邪魔だ、と罵られ、まともに息ができなくなる。
「うぐっ……」押しつぶされたカエルのように、うめき声さえつぶれた。それでも俺は美鈴を離さなかった。美鈴も必死に、俺にしがみつき続けた。

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