テキストサイズ

娘のカラダは絶賛発育中!頼むからもう少し離れてくれ!

第1章 第一章・父と娘のきわどい関係

 首を傾げる美鈴に、誰のせいだよ! と怒鳴りそうになったが踏みとどまった。とりあえず美鈴に当たらないように腰を引いた。

「具合悪いの?」

「いや、何でもない……」

「おでこ、すごい汗」

「心の汗だ」

「何それ、意味わかんないんだけど」美鈴はきゃはは、と笑った。「今、ふいてあげるね」

「余計なことをしないでくれ」

「でも風邪引いちゃう」

 俺に抱きついていた腕を解き、美鈴はもぞもぞ動き出した。きっとスカートのポケットからハンカチを取り出そうとしているのだ。

 だがしかし、その辺りは危険地帯だ。暴れ馬が近くで息をひそめているのだから。どんな名騎手でもコントール不可能な暴れ馬が……。

「うーん、これだけ混んでると腕をうまく動かせないよー」

「だからいいから。俺は放っておいて欲しいだけだから」

 ハンカチを取り出そうと美鈴が四苦八苦している時だった。

 カーブに差しかかった電車が大きく揺れた。

 俺の背中は押された。

 タマシイが抜け落ちたような表情をしている奴らは踏ん張ることを知らない。

 引いていた腰は圧力に耐えきれず、美鈴に向かって突き出すハメになってしまった。

 不可抗力。ではあるが……。

 暴れ馬は、ポケットをまさぐる美鈴の手に……。

「ん? 何これおとーさん。何か当たってるけど?」美鈴が俺を見上げ、首をかしげた。
「き、気にするな。傘だ。折りたたみ傘の柄だ」
「今日、雨って言ってたっけ?」

 言いながら、美鈴はおもむろに握った。
 ソレを、ついにソレを、ぎゅっと、握りやがった。

「うぐっ…!」
「く、苦しいのおとーさん?」と不安そうな声。

 そうではない。そうではないのだ、美鈴!

 満員電車が苦しくてうめき声を上げたわけではないのだ!

「は、離しなさい……」

 俺は声をしぼり出した。

「離すって、何を? てか、これってホントに傘? 何かここ、デコボコしてる」
 あろうことか美鈴は暴れ馬をスーツの上からさすり出した。

 しかもエラの部分に興味、あるいは違和感を覚えてしまったらしい。

 俺のもっとも敏感な部分のひとつだ。

 カリカリッ、と指先でひっかくようにこすられて、ビクリと体が震えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ