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金曜日のおじさま

第17章 diecisiete

若かりし頃の自分、若い女性と2人で笑顔で写っている。

「書斎に勝手に入って、ヒトの過去を漁るなんて…」

「こぇんあぁい…」

「まぁいいよ…今夜、ちゃんと話そうとは思ってたんだ。写真に写ってる人は、別れた妻だ」

今から20年前。
大学生の時にオレが片思いしていたのがその彼女。

卒業してオレは不動産の営業をしていた。彼女はデパートで化粧品販売員をしていて、昼メシを食べに行ったときに何度か同じ店であったりして、声をかけてきたのは彼女の方だった。

オレは内心ドキドキで舞い上がっていたんだ。

アフターに待ち合わせて、飲みに行ったりする様になった。一年くらいそんな関係で仲良くしていた。

で、オレは大きな契約が取れた日。ゲンを担いで、思い切って彼女に告白した。

「遅いよ…ずっと待ってたんだから。嬉しい」

そして、結ばれた。

仕事も上手くいって、オレは役職をもらえた。お互い仕事が忙しくなる時期だったけど、オレは彼女にプロポーズした。

結婚すると、妻は子どもを欲しがった。
オレは喜んで子作りに励んだ。2年間奮闘したけど子宝に恵まれなかった。

オレは勝手に子どもは諦めていた。

でも、妻は諦めていなかった。
不妊外来を受診したいと言われた。

オレはそこまでして子どもが欲しいとは思わなかった。2人の価値観がすれ違いだした。しつこくせがまれて、一度だけ受診した。

検査を受けて、決定的な診断を下された。

オレは無精子だと告知された。

オレより先に彼女が精神崩壊を起こした。
話し合いを重ねたが折り合いは付く事なく、離婚する流れになった。

彼女は再婚して、めでたく子どもを出産したと手紙が届いた。

「オレは彼女を恨んだりはしていない。今は幸せな家庭を築くことが出来たことを心から祝福している」

ビアルネスは黙ってオレの話に耳を傾けてくれている。

「ハハハ、上手くまとめてるだろ? 今は落ち着いて話してるけど…当時は荒れたり、自暴自棄になったり、それなりに苦しんだ時期があっての今だよ」

オレの顔色を伺っているのかジッと見つめてくる彼女の視線から逃れたくて、ビアルネスをギュッと抱き寄せた。

「おぃああ」

「うん?」

ビアルネスは封筒を差し出した。おそらく、今朝の返答が書いてあるハズだ。

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