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数珠つなぎ

第2章 君を離さない

鍵を奪い取り、部屋に向かおうとしたら手首をグッと掴まれた。

「何すんだよっ!行かなきゃ……止めさせるんだ!」


鍵がここにあるならまだニノは……


俺の言葉に今度は首を横に振った。

「もう……終わったんだ」


俺の頭の中で何回もリピートされる潤の言葉。

そしてその言葉が変化することは無い。


視点が定まらず、瞳に映るものがボヤける。


「おい……おい!しっかりしろ!」

耳に届いていた潤の言葉が反対の耳からすり抜けようとした瞬間、頬に衝撃が走った。

「泣きたいのはお前じゃねーだろ!」

現実から逃げ出そうとしていた俺を、胸倉を掴んで潤は呼び戻した。


そうだ。

今、泣きたいのは俺じゃない。


「わかってるよ!」

俺は必死に自分自身を奮い立たせた。

「じゃあ、早く行けよ!」


何でだよ……

何でお前まで泣いてるんだよ……


潤が叫んだ瞬間、なぜか目から涙が零れ落ちた。


でもあっという間に俺の肩を掴んで反転させると、背中を思いっきり突き飛ばした。

「VIPルーム……俺の名前でで二宮指名してるから自由に使え。お前にもこの時間、客から指名が入らないようにフェイクの指名をいれておいたから、安心して行ってこい」

振り返ると、潤は背を向けていて今の表情はわからない。

でも刻みに震えているような気がした。


どうして潤が俺たちのためにここまでしてくれる?

どうして俺たちの事なのに潤が泣いている?


挙げたらキリの無い疑問をぶつけたいところだが、今は1秒でも早くニノのところへ行かなきゃ。


「ありがとう」

「俺にはこんな事しかできないから……」

今の俺には充分すぎることなのに、背の高い潤の背中はやけに小さく弱々しく見えた。

「30分後に部屋に行く。そこですべてを話すから……」

「わかった」


俺は一番奥にあるVIPルームへと急いで向かった。

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