無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

ｶﾗﾝｶﾗﾝ…


ドアにかかった鈴が鳴り、来客を伝えてくれる。

「いらっしゃい、神山さん」

いつもの笑顔で店主が俺を出迎える。

「あら、神山さんいらっしゃい」

店主の声を聞いて、部屋へと繋がる廊下から奥さんも出てきた。

「こんにちわ、いつものお願いします」

ニッコリ笑いながらカウンターに座る。


他の来店者はなく、静まり返る店に料理をする音だけが響く。


「今日も外回り？」

「そうです。新人だから仕方ないですよ」

奥さんが俺の前に水を置いた。


ｶﾗﾝｶﾗﾝ…


「おっ、今日は客がおるで」

ガラの悪い奴らが入ってきた。

「何なんですか！帰って下さい」

優しい口調だった奥さんが怒鳴る。

「客に向かって偉そうやな」

「お客なんかじゃ……」

「おい、止めろ」

店主が手を休めることなく静かに奥さんに諭す。

ガラの悪い奴らがニヤリと笑いながらテーブル席に座る。

「注文お願いしまーす」

奥さんは無視。

「注文やって言ってるやろーが！」


ｶﾞﾝｯ!


背後から大きな音が聞こえた。

渋々、注文を聞きに行く奥さん。

「俺、うどん」

「俺、ざるぞばー」


ここは中華屋。

提供できない物をわざと注文している。

「いい加減にしてください！」

奥さんの叫び声に俺は後ろを振り返る。

「じゃあ、土地……明け渡せよ」

ドスの利いた声と奥さんを威圧的に睨む顔が目に入った。

「それは出来ません！」

「調子に乗るんじゃ……」

１人のガラの悪い奴が立ち上がった瞬間、俺は奥さんに駆け寄った。

「いい加減にしてください。迷惑行為で警察呼びますよ」

「何だと、テメェ！」

俺の言葉にイラッときたのか胸倉を掴んできた。

「おい、止めろ」

胸倉を掴んでたヤツは、チッ…と舌打ちするとドンと突き放し、俺はその場に尻餅をついた。

「良かったな、この兄ちゃんに感謝せーよ」

俺を見てニヤリと笑った。



ｶﾗﾝｶﾗﾝ…


ガラの悪い奴らはあっさり帰っていった。


「ごめんなさいっ、大丈夫？」

奥さんが俺の前にしゃがみ込み申し訳なさそうに見つめる。



これでまたひとつ……

俺への信頼が厚くなった。