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数珠つなぎ

第5章 お前らを逃さない

俺との信頼関係が確固たるものになった頃、俺は亭主と奥さんにある提案をした。


『土地を守れる方法がある』って。


八方塞がりだった亭主は縋りつくように俺の作戦に耳を傾けてくれた。

それから筋書き通り通り物事が進んでいく。


笑いを堪えるのに苦労した。


ホント、バカな奴ら。


知り合って間もない、何処の馬の骨ともわからない人を
信用するなんて。

お人好しにも程がある。


人は簡単に裏切る。


親でさえも簡単に子どもを裏切るんだから……


安堵の表情で借用書にサインをする亭主と奥さんを笑顔で見つめる。


そのサインが家族、そしてこの地区の破滅を導くとも知らずに……


そしてその数日後、俺は店を去るために『転勤になったと』告げた。

それを聞いた亭主も奥さんはとても寂しそうにしていて、最後の日には『またいつでも遊びに来てね』と笑顔で俺を見送った。


俺はもうここには来ない。

と言うより、この場所は数ヶ月後には更地になる。


お前らの居場所は無くなるんだよ。







それから数ヶ月後、いつもの様に社長に抱かれた後、俺の髪を撫でながら作戦が成功したことを教えてくれた。

『お前のお陰だ』って初めて任せてくれた俺の仕事ぶりを褒めてくれた。


やっと自分が1人の人間として認められた気がした。


けど、少しだけ不安があった。


『お前に繋がるようなものは残してないか?』

社長の言葉に一つの出来事を思い出した。


店に飾られていたコルクボード。

そこには常連のお客さんと亭主が笑顔で映る写真が貼られていた。

通い始めて1ヶ月ほどした頃、『写真を撮撮ろう』という亭主の誘いに、少しでも距離を縮めようと必死だった俺は了承してしまった。

名前は偽名を使っていたが、写真に写るのは紛れもない俺自身。


どうにか俺の存在を消すために写真を手に入れて処分しないと。


俺はもう行かないと決めていた中華屋へと向かった。


店の入り口のドアには【CLOSE】の看板。


昼間なのに薄暗い店の様子を伺っていると、ポンポンと肩を叩かれビクッと身体が震えた。

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