数珠つなぎ
第5章 お前らを逃さない
懐かしい……
そう思えるほど何回も食べた味。
「美味しいです」
これだけは店に通うようになって、唯一の嘘偽りのない言葉。
「そう言ってくれるのも、これが最後だろうな……」
ポツリと呟いた亭主の言葉に俺は何も言えず、蓮華を口に運ぶ。
「ただいま」
「お帰りなさい」
奥さんが帰ってきた家族を出迎える。
確か……息子さん。
何度か店で見かけたことがある。
お子さんは2人いて弟は大学生で、今は一人暮らしをしているから写真でしか見たことない。
「こんに……」
通りすがりに挨拶しようと俺の顔を見た瞬間、足を止めた。
「てめぇ、何しに来やがった」
取り立てに同行して、聞いてきた数々の怒号。
抑揚がないドスの聞いた声。
慣れているはずなのに……
それが自分に向けられると、恐怖で小刻みに身体が震える。
「ごっ、ごちそうさまです!お邪魔しました」
俺は立ち上がり、逃げるようにリビングをあとにした。
「おい、待て!」
この目の前のドアを開けば逃げられる。
でも足がこれ以上、動かなない。
俺はゆっくりと振り返った。
俺を睨みつける息子さんの手には包丁。
「お前だけは……お前だけは許さない」
包丁の刃を俺に向け、ゆっくりと近づいてくる。
「お願い止めて!ダメ、止めなさい!」
必死に止めようと、腕を引っ張り懇願する奥さんを息子さんが感情に任せて突き飛ばす。
「おい、やめないか!」
動くことの出来ない俺の前に亭主が立つと、盾になる。
「親父、どけっ!」
「もう、決めた事だ」
亭主の言葉を聞いて、包丁を持っていた手がだらりと力なく垂れ下がった。
「神山さん、行ってください」
亭主が振り返り、俺に微笑みかける。
いつも俺を店から見送るときと同じ表情。
なんで?
なんでなんだよ……
どうしてそんなに優しく笑えるんだよ。
俺はその笑顔から逃げるように、店を出た。
そしてその夜、一家は命を絶った。
息子さんは俺に向けていた包丁を、両親に突き刺して……自殺した。
亭主の言葉通り、俺は最後のお客になった。
そう思えるほど何回も食べた味。
「美味しいです」
これだけは店に通うようになって、唯一の嘘偽りのない言葉。
「そう言ってくれるのも、これが最後だろうな……」
ポツリと呟いた亭主の言葉に俺は何も言えず、蓮華を口に運ぶ。
「ただいま」
「お帰りなさい」
奥さんが帰ってきた家族を出迎える。
確か……息子さん。
何度か店で見かけたことがある。
お子さんは2人いて弟は大学生で、今は一人暮らしをしているから写真でしか見たことない。
「こんに……」
通りすがりに挨拶しようと俺の顔を見た瞬間、足を止めた。
「てめぇ、何しに来やがった」
取り立てに同行して、聞いてきた数々の怒号。
抑揚がないドスの聞いた声。
慣れているはずなのに……
それが自分に向けられると、恐怖で小刻みに身体が震える。
「ごっ、ごちそうさまです!お邪魔しました」
俺は立ち上がり、逃げるようにリビングをあとにした。
「おい、待て!」
この目の前のドアを開けば逃げられる。
でも足がこれ以上、動かなない。
俺はゆっくりと振り返った。
俺を睨みつける息子さんの手には包丁。
「お前だけは……お前だけは許さない」
包丁の刃を俺に向け、ゆっくりと近づいてくる。
「お願い止めて!ダメ、止めなさい!」
必死に止めようと、腕を引っ張り懇願する奥さんを息子さんが感情に任せて突き飛ばす。
「おい、やめないか!」
動くことの出来ない俺の前に亭主が立つと、盾になる。
「親父、どけっ!」
「もう、決めた事だ」
亭主の言葉を聞いて、包丁を持っていた手がだらりと力なく垂れ下がった。
「神山さん、行ってください」
亭主が振り返り、俺に微笑みかける。
いつも俺を店から見送るときと同じ表情。
なんで?
なんでなんだよ……
どうしてそんなに優しく笑えるんだよ。
俺はその笑顔から逃げるように、店を出た。
そしてその夜、一家は命を絶った。
息子さんは俺に向けていた包丁を、両親に突き刺して……自殺した。
亭主の言葉通り、俺は最後のお客になった。