数珠つなぎ
第1章 あなたを救いたい
店の裏口で智を待つ。
まだかな?
とっくに仕事は終わっているはずなのに……
心配になって、暗い廊下を通って指名を待つ部屋へと向かった。
少し開いたドアから部屋の明かりが漏れている。
「智……いる?」
ゆっくりドアを開けて遠慮がちに声をかけると、ソファーの肘掛けを枕に眠っていた。
音を立てずに近づくと、規則正しい吐息が聞こえくる。
何人もの男を相手にして、疲れないわけがない。
そりゃ、眠たくもなるよな。
何回目かのシャワーを終えた、智の濡れた髪。
さっきも見ていたはずなのに、『寝ている』という要素が加わった事で妖艶な雰囲気を醸し出していた。
あれだけ下衆な野郎共の抱かれても、智は汚れない。
きっとそれは心までは抱かれていないからだと思う。
だからこそ心が汚れてしまう前に、俺があなたを救いたい。
性欲発散ではなく俺が智を心共々、抱きたい。
緩い結び目はバスローブをはだけさせ、智の肌がいつもより多く見える。
スッと鎖骨辺りに手を伸ばし、親指と人差し指の間にバスローブを挟みゆっくりと動かすと肩が露わになる。
そして下に手をそのまま移動させると、胸の飾りが姿を現す。
いつも下衆野郎にここを……
俺はそこに恐る恐るチュッと口づけをする。
ピクっと震えた智の身体。
想像ではなく目の前に広がる現実に、嬉しさと悲しさが交互する。
嫌でも重ねてしまう。
下衆野郎と同じ反応なんじゃないかって。
いや、違う。
だって俺は……
俺は智の事を……
でも俺はそれ以上、何も出来なかった。
智の気持ちを考えずこんな事をする俺は結局、下衆野郎と変わらない。
気が付いたら、智の肌に俺の涙が落ちていた。