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数珠つなぎ

第5章 お前らを逃さない

でも計画を実行する1ヶ月前に社長は姿を消した。

会社も、もぬけの殻。

そこにポツリと置かれた鍵とジュラルミンケースとバインダー。


実は社長を逮捕してもらうつもりだった。


だって、邪魔だもん。


社長がいたら俺はいつまでも頂点に立つことは出来ない。

かと言って、社長を死ぬのを待つなんて無駄な時間を過ごしたくない。


『売り専』をしていた頃、俺の身体に虜になった警察関係者がいた。

そいつは将来、俺の目的のために必要だと直感した俺は連絡先を交換していた。

ずっと身体を求められていたけど、それだけは拒否した。


社長の言いつけを守ってね?


まぁ、満足してくれるようなご奉仕はしてあげたけど。


そしてここぞという時に身体を俺の差し出して、めちゃくちゃに抱かしてやった。


目的を達成するため。


社長やその一味を逮捕するのは容易なこと。


それなりの罪は犯してきたし、証拠も十分する過ぎるくらい用意できた。


それで俺の過去を知ってるやつらを一掃する計画だった。

けど社長を含め、俺の過去を知る人物は忽然と姿を消した。


もちろん逮捕されることもなく……


考えてみれば社長の長年築き上げてきた人脈に勝てる訳がなかった。

きっとどこかで情報が漏れたんだろう。



でも、俺は何事も無かったようにここに立っている。



この世界、裏切り者は許さない。


本来なら俺はもう、死にかけ……いや、すでに死んでいるかもしれない状況。


どうして裏切ろうとした俺を社長は許して見逃してくれたんだ?


ひとつ、思い当たる節があった。



『お前の目は俺に似ている』


もしかしたら社長も俺と同じだったのかもしれない。


けど、それを確かめる術はない。


俺は社長がくれたチャンスを生かす。


それが社長への恩返しかもしれない。


今思えば、社長は母親より俺を愛してくれた。


目の前にあるジュラルミンケースを開けると大金が入っていた。

バインダーにはたくさんの名刺がファイルされていた。


俺は社長の置き土産に向かって一礼した。

「ありがとうございます」

最初で最後の心からのお礼の言葉。


そして、鍵をグッと握りしめ荷物を持ってビルをあとにした。



そこに俺の過去、社長の恩義、すべてを捨てて……

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