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数珠つなぎ

第5章 お前らを逃さない

ドアが開き、遠慮がちに1人の男が入ってきた。

「突っ立ってないで早く入って来れば?」

ちんたらしているヤツは嫌いだ。

1秒、1分が勿体無い。

「すみま…せん」

俯き加減で俺が座っているデスクの前まで来た。

「で、キミは誰?何の用?」

どうせ黙ったままだと思ったので、俺から問いかけた。

「借金の返済の件で……」

その言葉に、チラッと目の前の男の顔を確認した。


コイツ確か……


引き出しを開け、顧客リストを確認。

「大野さんですね。確か明日が支払日でしたよね?わざわざ足を運んでいただかなくても……」

優しい口調で話を進める。


お前の魂胆なんて見え見えなんだよ。


会社の資料を見つめる。

今の経営状態では借金返済は不可能。

何とか先月まではコゲつかなかったがどうやら限界が来たみたいだ。


まぁ、想定範囲内の事。


返せる当てのないヤツにお金を貸す気は毛頭ない。


土地の市場価格は確認済み。

金は回収できるし、お釣りも十分だ。


「返済を……待っていただけないでしょうか?」

勢いよく頭を下げてきた。


もう見飽きた。

そんな行動、何の意味もないんだよ。


溜め息をつきながら俺は立ち上がる。


「ねぇ、親に教わらなかった?借りたものはちゃんと返せって?って、親がそれを守ってないか」

頭を下げている大野の髪を掴み、俺の顔の前まで近づけた。


潤んだ瞳が不安げに揺れる。


「親が返せないなら、お前が返せよ」


謝るなら誰でもできる。

頼むのも誰でもできる。


簡単なことだけすんじゃねーよ。



自分を犠牲にしてみろ。



俺は望んでいないのに犠牲になったんだ。



「でも……手がないことはない」

「えっ?ホントですか!」

俺の言葉に希望に満ち溢れた表情を見せた。



お前は親のためにどこまで出来る?


何故だかわからないけど、コイツの事を試したくなった。


ビジュアルも悪くない。


そして何より今までにない『売り専』になる予感がした。


「仕事、紹介してやる。俺の経営している会社だけど金になる。どうだ?」

「お願いします!」

また、深々と頭を下げた。


お前は、親のために自分の将来を捨てることができるか?

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