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数珠つなぎ

第5章 お前らを逃さない

こいつ……大野は親のため、会社存続のために自分の将来、そして人生を犠牲にした。

文句も愚痴も泣き言もなく、淡々と男に抱かれ続ける。


働き始めて3ヶ月が経った頃、俺の予想通り客受けは絶大で、指名客が後を絶たない。


「はい、かしこまりました。その代わり、お代の方は高くつきますよ?」

今日もまた大野への指名の電話。


ホント、金の成る木だよ……


「さすがですね……では、明日お待ちしております」

電話を終えパソコンを開くと、各部屋の様子が映し出される。

カーソルを動かし、ある場所の映像をクリックする。


今日もまた、VIPルームには大野と上客の交わる姿。


「ああっ…んっ、んあっ」

スピーカーから聞こえる大野の喘ぎ。

完全に快楽に溺れる大野。


でも心までは溺れない。

金にも溺れない。


どんなに抱かれても汚れることがない。

寧ろ、どんどん綺麗になっていく。



俺と何が違うんだっていうんだ。



親は相変わらずで、俺を通してお金が大野と親の間で行ったり来たりを繰り返す。


完全に親は大野に依存している。



俺と正反対。


どっちが幸せなんだろう?



大野を見ているとわからなくなる。




だからこそ、大野を壊したい。





絶対に俺の方が幸せだ。


孤独に勝るものはない。

金に勝るものはない。


パタリとパソコンを閉じ、店を後にする。



そしてビルを出るとまたアイツがいた。


歩道にあるレンガ造りの花壇に腰かけ、出てきた俺をいつもジッと見ている。

いつも夜に店を出るが時間はバラバラ。

でもヤツはどんな時間帯に出たとしてもそこにいる。


普通なら気にしないけど、アイツの俺を見つめる目が忘れられない。



俺を睨みつけるように見つめる鋭い瞳。

そしてその瞳には何かを決意したような力強さを感じた。



その瞳を俺は……壊したくなった。



きっとのヤツを突き動かしているのは自分の為じゃなく、誰かの為。


そしてその誰かのために、俺が声をかけてるれるのを待っている。


「俺に何か用か?」

「やっと、声かけてくれた」

スッと立ち上がり、にっこりと笑った。

「俺もここで……働きたい」



お前も誰かのために自分の人生を捧げるのか?



「いいよ」


お前もどこまで耐えられる?

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