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数珠つなぎ

第6章 僕らは離れない

【潤side】


『やっぱり潤の身体は最高だよ』


何人もの汚い手が伸びてきて、厭らしく俺の身体を撫で回していく。


止めろ……俺に触れるな!


『またイったの?潤は淫乱だね』


違う……俺は感じてなんかいない!


『俺がいないと潤は生きていけないね』


ニヤニヤしたアイツの顔がゆっくりと俺に近づいてくる。


「来るなっ!」

押し退ける様にベッドから起き上がる。


「じゅ……潤?」

肩で呼吸を整えながら横を見下ろすと、眠そうに目を擦る雅紀の姿。


良かった……夢か。


「うっ……」

それをより実感したくて雅紀の顔に手を伸ばそうとした瞬間、胃から込みあげてくる嫌悪感に慌ててトイレへと向かう。


個室に響く自分の嗚咽。

でも出てくるのは涙と少しの胃酸。


店のトイレで全て吐き出してきたから、もう何も出ない。


「潤……大丈夫?」

遠慮がちに雅紀がドア越しに声をかけてくれた。


早く出なきゃ。


濡れた唇と涙をトイレットペーパーで拭き取った。

「よしっ!」

俺の声は水の流れる音で聞こえない。

ぺしっと頬を叩き、トイレのドアを開けた。

「大丈夫だよ。吐いたらスッキリ。胃がムカムカしてたんだよね。店で食べた天丼がまずかったかな……」

心配そうに佇む雅紀に笑顔を見せ、くしゃっと髪を撫でた。

「先、ベッド行ってて?俺も水飲んだら行くから」

俺の言葉に雅紀は首を縦に振ってトボトボ歩き出した。

俺は台所に向かい、冷蔵庫からミネラルウォータを取り出し、喉に流し込む。


俺が雅紀を支えてやらないといけないのに……


自分の弱さに情けなくなる。


寝室に戻るとベッドで小さく縮こまり外側を向く雅紀。

ベットに入ると、華奢な背中を後ろからギュッと抱きしめた。


俺がずっと雅紀を守るから……


「雅紀……」

「潤……」

俺の方を向こうと身体を動かしてきたので、抱きしめている腕の力を緩めた。

すると雅紀はものすごい勢いで振り返り、あっという間に俺は仰向けになる。


そして雅紀は俺に覆い被さっていた。


俺がいつもいる場所に雅紀がいる。

雅紀がいつもいる場所に俺がいる。


違う状況に戸惑うよりも、決意に満ちたような強い眼差しとそれに相反する涙を溢す雅紀の姿に心臓が波打った。

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