テキストサイズ

数珠つなぎ

第1章 あなたを救いたい

再び重なる唇はすぐには離れなかった。

智の上唇を吸っては下唇を吸う。

柔らかい唇の感触が余計に俺の唇に伝わってくる。

智も同じように俺の唇の感触を味わう。

『もっと』って思っていたけど、智が重なる唇を離した。

「もっと奥まで……ニノを感じたい」

どちらとも言えない唾液で潤った智の唇が動き、俺を求める言葉を放つ。

「口、開けて?」

智の指示で唇と唇の空間に隙間を作った瞬間、後頭部に手を回して俺を顔を引き寄せた。

隔てるものがないので、すんなりと智の舌が俺の口内へ侵入し、中を堪能する様に暴れまわる。

そしてあっという間に捕まえられた舌が、智の舌で犯されていく。


さっきまで自分がリードしてたはずなのに、いつの間にか智に翻弄されている。

「…んっ、ぁっ…んぅっ…」

キスの合間に漏れ聞こえる声は、壁越しに聞いていたあの時の智の声じゃなくて俺の声。

智とのキスは気持ちいいのに、不意にちらついた今日接客した下衆野郎共。


今日キスしたのは……俺だけじゃない。

智は下衆野郎と俺、どっちが……


俺は咄嗟に唇を離した。

「どうしたの、ニノ?」

心配そうに俺を見つめる智に思わず、自分の口を手で押さえた。


言えるはずない。

下衆野郎に嫉妬してるなんて。


聞けるはずない。

下衆野郎にもそんなキスしてるのなんて。


「……俺が自分から誰かを求めたのはニノが初めてだよ?お客様にも自らキスなんてしない」

「えっ?」


嘘だろ……本当に?


「ねぇ、動いてる?」

智が自分の鼻を指差した。

「動いて……ない」

智は嘘をつくと鼻の穴がピクピクするんだ。


智は本気で……俺を求めてくれていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ