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数珠つなぎ

第6章 僕らは離れない

「んー、朝からいい匂い」

頭をボリボリ掻きながら、寝室から潤が出てきた。

潤は俺と同じくらいに起きたけど二度寝。

いつもなら起こすけど、今日は休みなのでそのまま寝かせた。


どうしても作りたいものあった。


「もうすぐできるからちょっと待って」

小皿に掬って味を確認。


うん……美味しい。


「うわっ、どうしたの?」

潤が後ろからギュッと抱きしめて、肩越しに鍋の中身を覗き込む。

「もしかして……中華粥?」

色々な感情がグルグルして、首を縦に振ることしか出来なかった。

「早く食べたいから顔、洗ってくるね」

そんな俺の気持ちを察してくれたのか、頬に優しいキスを落として洗面所へ向かう。


この中華粥は俺が体調を崩した時、いつも母ちゃんが作ってくれた。

そして母ちゃんに初めて教えてもらった料理。


いわば、お袋の味。


それに潤が風邪をひいた時に、初めて作った料理でもある。


後から聞いたけど、その看病がきっかけで俺への想いに気がついたって。


色々な思い出が詰まった中華粥。


作ってくれる家族はもういない。

家族との記憶が甦る。


それは……すべて過去。


潤に中華粥を作らなければ、俺への気持ちに気がつくことはなかった。

そして俺の復讐に協力し、誰かに抱かれることはなかった。


「雅紀……どうした?」

洗面所から戻ってきていた潤が心配そうに顔を覗き込む。

「ううん、なんでもない」

「そう?お粥、早く食べたいな」

嬉しそうに中華粥の入った鍋を見つめる。


潤はいつでも俺に笑顔をくれる。


こんな俺なのに……


お椀に善そうと、テーブルに置いた。

「じゃぁ、いただきます」

パクっと潤がお粥を口に運ぶ。

「あふっ、うん……旨い」

また一口、お粥を口に運ぶ。




「ごちそうさま」

おかわりもして……米粒ひとつ残さず食べてくれた。


俺は食べられないでいた。


「雅紀、もう苦しまないで。明日で終わるから……この中華粥は、俺達が未来へと進む味なんだから」


潤の未来を奪った味が、俺達を未来へと導くの?


潤の未来に俺がいていいの?


心の問いかけなのに、潤は優しい笑顔で頷いてくれた。


冷めた中華粥を口に運ぶ。


俺たちの未来の味は、少しだけしょっぱかった。

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