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数珠つなぎ

第6章 僕らは離れない

【潤side】


俺を抱いてくれた日から雅紀は少しずつ、でも確実に強くなっていった。

そして俺たちは少しずつ前へ進み始めた。



ようやく見えた未来に向かって……



久しぶりに食べた雅紀の手作り中華粥。

看病してくれた時に作ってくれた時と同じで、優しい味。


この料理はお母さんから教えてもらったって聞いた。


中華粥は雅紀が作れる唯一のお袋の味。

家族との思い出を再現できる料理。



でもそれは容赦なく現実を突きつける。



増えること無い料理のレパートリー。

増えること無い家族との思い出。


それが雅紀の悲しみを増やし、いつしか家族との楽しい思い出と向き合うことを止めた。


そして雅紀の中に残ったのは家族の最後の無残な姿。


このままじゃいけない。

いつかは向き合わないといけない。


復讐に生きる雅紀の姿を天国の家族は望んでいない。


けどこればかりは俺の力ではどうすることも出来ない。

雅紀自身が踏み出さなければ意味がない。


俺が出来ることは、その時に雅紀の隣にいること。


雅紀はたぶん思い出に向き合い、全てを受け入れようとしている。



ようやく雅紀を連れて、あの場所に行けるのかもしれない。



「あのさ……」

料理の後片付けを終えた雅紀が、ソファー越しに俺を後ろから抱きしめた。

「ん、どうした?」

首筋に埋める頭を優しく撫でた。

「行きたい場所があるんだ。一緒に……来てくれる?」



やっと、一緒に会いに行けます。



「いいよ。今から行く?」

「うん」

「じゃあ、着替えよっか?ちょっと待ってて」

「う、うん……」

俺の行動に戸惑う雅紀をリビングに置いて寝室に向かった。

クローゼットを開けると、二着の真新しいスーツを取り出す。

社会人になったら着ようって、互いにプレゼントした。


何年、このスーツは主人に着て貰うのを待ってたんだろう。


やっと、袖を通せる。


きっとこの姿を家族は見たかったと思う。



社会へと羽ばたく雅紀の姿を……



目的は違うけどこれを着て会いに行こう。



きっと喜んでくれるよ?

未来へと羽ばたく雅紀の姿を……

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