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数珠つなぎ

第7章 俺も愛されたい

ヤバいな……


床に倒れた身体を起き上がらせることが出来ない。

そして止まることなく背中から液体が溢れている感覚。


「ごめんなさいっ、ごめんなさい」

風磨は手にナイフを持ったまま、その場を動けないでいる。

「きゅっ、救急車……」

震える手でスマホをタップする。


救急車を呼べば、風磨は捕まってしまう。


きっと呼んだって俺は……


「や…やめ…ろ」

俺の言葉に風磨が手を止めた。

「逃げ…ろ」

「嫌だっ、出来ない…っ」

首をブンブンと振って拒否をする。

「逃げろって言ってるだろ!」

怒鳴った瞬間、強烈な痛みと共に背中から液体が大量に溢れ出だす感覚がした。

「でも…でも…っ!」

「俺の言う事が……聞けねぇのか!」

不思議と2回目の叫びに、痛みも液体が溢れる感覚もなかった。


カラン…


「うわぁぁぁぁぁぁ!」

ナイフが床に落ちる音と風磨の叫び声。

乱暴にドアを開けると、風磨は後ろを振り返ることなく部屋を出た。

足音は一瞬にして聞こえなくなった。


俺は這いつくばりながら風磨が立っていた場所まで移動する。

そこにあったのは血の付いたナイフ。


指紋を拭くものはないか……


辺りを見渡すと垂れ下がるテーブルクロスが目に留まる。

必死に手を伸ばして、それを引っ張り落とした。



カランカラン……


テーブルクロスの上に乗っていたものが目の前に落ちた。

「準備いいな……俺」

ナイフの柄の部分を綺麗に拭く。

そして俺は落ちてきたジッポオイルの蓋を開け、テーブルクロスに流しかけた。


目の前では流石に怖いな。


俺は再び這いつくばりながら部屋の端まで移動し、最後の力を振り絞って壁を背にして座った。


手放しちゃうけど……許してね。


俺はポケットからジッポーライターを取り出した。


蓋を開けて、ホイールを親指で回す。


でも、スピードがないのか着火しない。



昔みたいにあの人に『下手だな』って笑われちゃうよ。



もう一度、ホイールを回すと着火した。






これですべて終わる。






着火したままのジッポーをテーブルクロスが置いてある場所に優しく投げた。

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