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数珠つなぎ

第1章 あなたを救いたい

智が決意したかのように俺の手をギュッと握り、ソファーへと連れていく。


そこは俺が腰かけるはずのないソファー。

そして智が腰かける時間もないソファー。


俺たちがそのに座ったのは一瞬。


智が俺を抱きしめると、そのままゆっくりと身体を倒した。


ソファーが俺たちが愛し合う小さな狭いベッドに変わる。

智は顔の横に手をついて、俺を見下げる。


でもその顔に互いの想いが通じ合った喜びはない。


「どうして、そんな悲しい顔をしているの?」

智の涙が頬を伝わず、ダイレクトに俺の頬へと落ちていく。

「ごめん……ごめん……」

まるで俺に言い聞かせるように、何度も何度も謝って来る。

「謝らないで……俺が望んだことだから」

涙が再び落ちる前に、手を伸ばし智の目を指で拭った。

「本当に……本当にそれでいいの?」


真剣な目で俺を見つめる。

初めて見た姿にドクンと心臓が疼く。


智の気持ちに俺も真剣に応えたい。


「うん。後悔なんて……絶対にしない」

俺の言葉を聞いて智が目を閉じると、溜まっていた涙がポツリと頬に落ちる。


空調の音だけが響く部屋。

時間にすれば数秒だったけど、やけに長く感じた沈黙。


スーっと深呼吸し、瞼をゆっくりと開けた智の瞳には涙はもうなく、獲物を捕らえたように鋭い瞳で俺を見つめた。

その瞳に捉えられた俺は、目に見えない鎖で縛られたかのように動けなくなってしまった。

智の手が頬に手が伸びてくる。

「ん…っ」

触れた瞬間、ピクっと身体が震えた。

けどそれは決して恐怖からではない。



もっと……触れて欲しい。



そう思うと俺の身体は智を求めて動く。


後頭部に手を回し、智を引き寄せる。

「智」

「ニノ」

互いの名前を呼び合い、そして重なった唇にさっきの様な優しい甘い時間は無かった。

ただただお互いを求めて舌が絡みあい、どちらとも言えない液が顎を伝っていった。

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