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ブルームーン・シンドローム

第1章 ブルームーン・シンドローム


 ――月が蒼い夜だった。

 空気がピリピリと痛いくらいに冷え込んでいて、肌寒い。


「本当に良かったんですか?」


 小さな明かりが灯っただけの狭い一室に案内され、井筒暁人(いづちあきひと)を見つめていた東雲蒼(しののめあお)はふいに口を開いた。


「僕の部屋なんかにのこのことついてきて」


 聞き慣れているはずの声が、なぜかいつもと違って聞こえる。突き放すようなニュアンスがあった。

 彼は学校にいる時と変わらず、綺麗な敬語のまま。

 心がざわついていた。


「……駄目、なのかよ」


 問いかける声がわずかに震えていることに、暁人自身も気付いてはいた。

 その理由を探りあてられなかっただけだ。

 蒼の瞳が自分を捉えているという事実に、暁人の体が仄かに熱を帯びる。


「……っ」


 気付いた時には、皺一つない白いベッドの上に押し倒されていた。

 覆いかぶさるようにのしかかってくる蒼の体は、驚くほど軽い。


「後悔……しませんか?」

「何を……」


 洩れた声が、思いのほか落ち着いていたことに暁人は戸惑っていた。

 確信めいたものはない。けれども予感は、確かにあった――。

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