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甘い鎖~縛られて溶かされる~

第8章 奪われて…

あたしは昔、自宅の庭で遊んでいたときに、転んで骨折をした。



入院先のベッドの上で動けないあたしのところに、少し年上の男の子が会いに来てくれたの。



痛くて、動けなくて、辛くて泣いていたあたしに、彼は言った。



「君は治るんだから、大丈夫だよ」



あたしは訊ねた。



「お兄ちゃんは?」



すると彼は答えた。



「僕は治らないんだ」



彼は生まれつき心臓の病を持っていた。



何度も発作を起こし、手術をして入院をしていると言う。



医師から余命を告げられている。



彼は毎日あたしの病室に来てくれて、たくさん話をしてくれた。



あたしがリハビリを始めた頃も会いに来ては一緒に歩いてくれた。



あたしが退院をする頃、彼は病院の庭で花飾りを作ってあたしの頭にかぶせてくれたの。



とても上手に作られていて、あたしは嬉しくてたまらなかった。



だけど彼は寂しそうな顔をした。



彼は二十歳まで生きられないんだって言った。



そんなの嫌だから、あたしは彼に言ったの。




「優依、お兄ちゃんのことが大好きだよ」



彼は泣いていた。



「泣かないで、お兄ちゃん。優依がいるから。優依がお嫁さんになってあげる。だから、生きて」



名前を覚えていなかった。



だけど彼はあたしのことを覚えていたの。







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