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甘い鎖~縛られて溶かされる~

第9章 彼氏だけど…

志桜さんは運転中、あたしに話しかけてきた。



「誰かと待ち合わせ?」



ドキッ…



「えっ、と…はい」



あんなことがあって彼氏と会うなんて言いづらい。



「そっか。彼氏?」



ドクン…



「…はい」



「ふうん、そう」



「す、すみません」



「なぜ謝るの?」



「え、だって…」



「彼氏でしょ?」



「そう、です…けど」



あれ…



なんだろ、拍子抜け。



てっきり何か言われると思ったのに。



それっきり志桜さんは黙ってしまった。



車内がしーんと静まって、妙に緊張する。



ドクンドクンドクン…



あたしは自分の鼓動の音しか耳に入ってこなくなった。



志桜さんが何を考えているのかわからない。



どうして?あたしにあんなことをするのに…



あたしのことを好きだって言ったのに…



あたしが彼氏と会うのは平気なの?



何だろう、この気持ち。



どうしてあたしがもやもやするんだろ。



「どのあたりで降ろせばいいかな?」



「え?」



考えごとをしていたあたしはハッとして顔を上げる。



もう駅前に到着していた。



「あ、このあたりで。ありがとうございます」



お礼を言って車を降りようとしたら、志桜さんに腕を掴まれた。



「あ、あのう…」



「帰りも迎えに来るから連絡して」



それは断ろう、と思ったのに…



「わかりました」



あたしは素直に応じてしまった。



「行っておいで」



志桜さんは笑顔であたしの腕を離した。



なぜか、胸の奥が、痛くなった。






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