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甘い鎖~縛られて溶かされる~

第17章 一生分の愛

おじさまは志桜さんのことが分からない。



彼の病状も悪くなっていくばかり。



大神家はお通夜みたいに暗い雰囲気が漂っていた。



ある日、三坂さんがあたしと悠樹くんを書斎に呼び出した。



三坂さんはあたしたちにそれぞれ封筒を渡した。



「何だよこれ?」



悠樹くんが訊ねると、三坂さんは神妙な面持ちで答えた。



「志桜さまから預かっていたお手紙です。もしも自分に何かあったらおふたりに渡してほしいのだと」



ドキッとした。



何が書いてあるの?



悠樹くんはすぐに封筒を開けて手紙を読み始めた。



あたしも恐る恐る手紙を開く。



そこには、信じられないことが書いてあった。



遺産に関する遺言書と一緒に、もしも自分が死んだらあたしに悠樹くんと再婚してほしいって。



「なんだよこれ!」



悠樹くんが苛立ちながら叫んだ。



「俺にこの家を継げって?そんなの無理に決まってんだろ!それに、こいつと再婚?兄貴は馬鹿か!あんたじゃないと駄目だろ!」



涙を流しながら叫ぶ悠樹くんを見て、あたしも大泣きしてしまった。



あたしはバイトを辞めて、大学の勉強も中断した。



あたしは毎日部屋に引きこもってぼんやり過ごした。



何もする気になれなかった。



だけど、どんなにしんどい時も、お見舞いには行った。



あたしは毎日彼に話しかけた。



「今日は少し体調がいいの」



「ね、名前は何にする?」



「あたし、桜の字を入れたいなあ」



「性別はどっちかな?ね、志桜さんはどっちがいい?」



相変わらず無反応な彼の顔を見て、あたしはため息をついた。



「また明日、来るね」





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