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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 「僕も行きます、構わないでしょう?」「勿論でございますとも─ただ…。お若い方には、ご退屈されるかもしれません」「山奥なのかな」「さようで…空気や眺めは最高級でございます」微笑みを謹厳な顔に浮かべる…。
 「キム侍従、貴方は」「はい?」「あの、エミンさんの侍従のお仕事は…」「わたくしのご心配まで…恐縮致します」柔らかい表情になった。
 「お嬢さまは、若い執事見習いの者をお気に入られて」銀の紅茶ポットを持ち上げ、「会長のお気遣いで、わたくしはスイスの保養地で、お世話をさせて頂くことになりました…」「また、チャンミンを頼みます」「ユノさまとわたくし。チャンミンさまを囲んで、静かに過ごせましょう」
 熱い紅茶から、ゆっくりと湯気……



 「スザナ」巨漢の黒人男性が、やわらかく呼び掛ける。
 「ドクター・ルーカス」悪役レスラーめいた強面が綻ぶと、人懐こい子供のような笑顔が表れた。
 「失礼、チノ教授。学内だった」スザナ・チノが今度は笑顔になる。
 「変死体は何を語ったかな? ドクター・チノ」 改まった口調での問いに、肩までの黒髪を軽く振り、「かなりのお喋りマダムだわ」黒人女性教授の、黒い瞳が聡明に輝く。

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