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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 博物誌の全集をショーウインドに並べる。秋の陽差しが、分厚い硝子を通して手元を明るます。…窓越しに見覚えた顔(チャン、ミン─)…長身の背中を丸めながら、ぶらぶら歩きで路地の奥に向かって行く…
 「フライ!」声が上がったが、かまわずに、路地に飛び出す。
 のっぽな猫背の後ろは消えていた。「オ,ラァ~」のんびりした呼び掛け…カフェのウェイトレスが、深い赤のエプロンドレス姿で、ゆらゆらとこちらに手を振った。
 ──首を傾げながら、書店にフライが戻る。すぐそばの古ぼけたビルの陰から、小柄な人物が路地の奥を窺い見ていた。 ぼさぼさの髪に青ざめた顔いろ。目を赤くして唇はひび割れ、よれよれのシャツ。デッキシューズには乾いた泥─〈デミアン〉にいた、ボーイ見習いの少年だった。



 山小屋ふうの壁掛けランプが、店内を照らすと、秋の夜らしい雰囲気になった。
 ワイングラスに、胡桃を添える。ワインは深紅。
 「ところで、チャンミンさん。どうですか」「うん、最近は…毎日リハビリだよ」「外出許可は」「まだ、─無理だろう」胡桃を手のひらで、転がす。
 

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