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狼からの招待状

第8章 水仙月

「Have a nice day…」笑顔でカードと、紙包みを渡す。
 ベストセラーの陳列棚に行こうと、レジカウンターを回り込む。…頬に強い視線を、感じた─
 棚の本を並べ替える…背中に、探るような視線─
 臙脂いろのエプロンに、青ボーダーのトレーナー。少し長めな髪を今日は、紺のバンダナで纏めている。
 「Excuse me?」振り向くと、そばかすの目立つ顔に赤っぽいロング・ソバージュの女性が、美術年鑑を片手に、早口の英語でフライに質問してきた。
 通りの向かいのギャラリーの個展の話だった。 書店の奥のガラス張りの画集棚に、赤毛の女性客を案内する─黒のジーンズとスニーカーが、軽やかな足運び…視線が、フライの動きに連れ、絡まるように感じられた。
 ガラス張りの棚脇の縦長な鏡。
 ─ぼさぼさの頭が、映っていて…「あの…」ふたり連れの学生らしい女性客。
 経営学の叢書を探していると云う─。
高い棚に梯子を掛けて、数冊、渡す。
 「経営なら、本より実学を、ご存じでしょう」 梯子を降りたところで背中に声がかかった。
 高身長のぼさぼさ頭が、フライを見下ろす…
 「実学だって?」「ええ。─ミスター・パーク…本部長」「…部長?」

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