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狼からの招待状

第8章 水仙月

 梯子を片付けてレジへ行きかけ、「お人違い、されてます、…失礼」「お祖父さま、ご失望なさって。グループ総帥も老いられた」「何ですか…バイト野郎の俺に」「お話しましょうか」フライのエプロンの前ポケットに、白いカード…名刺が滑り込んだ。



 「フライ」
太鼓腹の店長が、「お前のこといろいろ訊かれた…。結婚調査かな」「そうですか、玉の輿かな?」大笑いした店長─「真面目に働いてるって云っておいた」「有難う、ございます」お辞儀する…肩を大きな掌で叩き、また店長は笑った。
 「ま─休憩行ってこい」白い手袋を嵌めながら、そう云い、新刊書の荷ほどきにかかった。



 生成りに茶の彩りのワンピースの少女が、白い帽子を手に石畳を小走りに行く。
 …フライ。お祖父さまに…お手紙でも……
 眉をひそめる─グレ。 ……何も云わず…飛び出して─
 ─良い機会だよ、フライ…、…いちど、ソウルに戻っても……
 オレンジジュースのコップ。
 のっぽのぼさぼさ頭の男の名刺…チャン特派員 ‘New Economy’……
 (俺は、俺なのに)
 グレの横顔、白い頬にかかる長い髪─
 (グレ)
 

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