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狼からの招待状

第8章 水仙月

遠い記憶を懐かしむキム侍従の眼を、グレの瞳が見つめた。



 明るいオレンジいろのシャツと軽いウェーブヘアのスタイル…「誰でも、云いたくない事のひとつやふたつ、あるだろう」マスターはそう云うと、セラレットに向き直る。
 「誰にでも…」ぼさぼさ頭の記者は、カウンターに192㎝の長身を凭せかけた。
 黙り込んだマスター。「誰にでも、─ですか…」
ゆっくりと、長身の身体を丸椅子に下ろす。
 「ご注文は」
 「貴兄のお名前を」
 「え? …」
訝しげに、チャン記者の面を、マスターは見る。 「何処かで─」言葉を切り、マスターの視線をはね除けるように、「お会いした事があるようです」強い口調だった。
 「─何処にでも、転がっている顔です」ふっ、と笑ったマスター。
 「何処にでも、何処か…見覚えある顔」下から覗き込むように、マスターに、視線を当てる。
 「…」腕捲りして、グラスを棚から取る─
 「…」何か云いかけたチャン記者は、黙り込み─マスターを見る。
 素知らぬ顔で、マスターはカウンターに炭酸水の大型ボトルを置き、コースターにグラスを載せる。
 ……青い薔薇
…紺碧の海の伝説

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