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狼からの招待状

第8章 水仙月

 (チャンミンさん。快くなったのね、会いたかった)(心配かけて…もう大丈夫だから)(パパも喜ぶわ)(お父さまのご様子は)……
 「ユノ。ユノったら」 二階建ての赤いバスが、ドール・ハウスに似た街並みを、ゆっくり遠ざかる。
 金髪を不満げに揺すり、「うわの空ね、せっかく私が遠くから来たのに」舌打ち。薄いピンクの唇をわざとらしく、尖らせた。
 (アメリカ、行きましょう)(検査が終わってない)(ボストンに転院すればいいわ)(もう退院だから…待って)……「ユノォ」ハイヒールが、舗道に苛立たしげな音をさせる。「ごめん、しばらくだね。─仕事で?」ますます、膨れっ面…(相変わらずのわがまま─チャンミンのなら、可愛いけど) 
 ─膨れっ面女の名は、ケイト。ユノと同郷出身で歌手デビューしたが、売れずに女優に転身した…が、わがままな性格がわざわいして、リポーターの勉強をする名目で、留学した。それきり、消息を聞かず、芸能界を引退したも同然だったが、留学先で現地の人間と挙式した噂もあった。
 「ユノったら、何考えてるのよ」馴れ馴れしく、腕をとる。
 道ゆく観光客のグループが、ふたりの姿にひそひそ声で、囁き合う。

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