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狼からの招待状

第8章 水仙月

`ティーハウス 山猫´と、手書きの看板が出ている。
 「病院行かないの」「ひと休み、したいんだろ?」
 木製の扉。ギッと軋む…丸い小さなテーブルがきのこのように、幾つも並んでいる。
 「田舎臭い店。山奥みたい…」
 磨き上げられたカウンターの方から、ウェイトレスがやってきた。
 「ハロー、良い雰囲気だね」ユノのブロークンな英語に、そばかすの頬を照れたように緩める。 赤毛に化粧っけのない、林檎を思わす顔のいろ。
 店内は壁紙が杢調で、音楽は流れていないが、窓のすぐ外の木立から、鳥の囀ずりが、聴こえてくる。
 森のなかにいるような静けさだった。
 オーダーをとると、赤毛のウェイトレスは、ゆったりした足どりで、カウンターの奥にゆく。
 長い若葉いろのスカートが、そよ風に揺れるカーテンのように、ゆらゆらと、白いタイツに纏わりつきながら動く。
 ─「お茶飲んだら、病院まで送る。…俺はロビーで、待ってる」甘く薫るココアを啜り、云うと、「ロビー? なんで?」首を傾げた。…染めた金髪から、濃い香水の匂い。 
 「婚約者が、チャンミンの検査に付き添って一緒に来る。俺は邪魔者」「邪魔?」意地の悪い目付き。

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