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狼からの招待状

第8章 水仙月

 「きみの弟…」「セオドア?」薔薇の唇を、開く。
 「俺はチャンミンの兄だから」形の良い頭の後ろ…。ひと纏めにした透きとおる金髪、吹いてきた春風にそよぐ。
 「だから? …」
 「弟が、…チャンミンが幸福なら、良いんだ」
 「そうらしいわね。テディもそんなこと云ってた」
 「そう─。それだけだよ」
 「これからよ」
 「何が?」
 「チャンミンよ。彼の運命」
 「運命…きみが」 
ふと、足を止めるユノ。
 「セオドア…姉のきみの─ゲーム」含み笑うイボンヌ。
 「姉のわたしに弟は勝てないわ。双子であってもよ」
 蝋燭の匂い…春の通りに相応しくない、暗がりの…闇の匂いが、そよ風に、のってくる。
 「そうか、…死のゲーム」
ユノが、天空を振り仰ぐ─イボンヌは消え失せていた。
 甘い薔薇の香りが、微かに残っている春の街のアスファルト。

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