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放課後は、ヒミツの待ち合わせ。(R18)

第7章 初夏とカップケーキ

気付けば授業は終わっていて、放課後のように調理室がにぎわっている。


「小笠原くぅ~んっ!」


女子の人だかりに気づいて目をむければ、澄くんが取り囲まれていた。


……すごい人気に、思わず唖然としてしまう。



だって女子が揃いも揃って、澄くんにお菓子を渡そうとしているんだもん。


自分の手に持つカップケーキに目を落としたけど。


ポリ袋って何なの、あたし……。


こんなの渡せるわけない。……いや、渡す気なんてないんだけど。


あたしと佐原さんは並んでただ澄くんの騒ぎを眺める。


すると、


「女子たちあんなに気合入れてるのに可哀そう。小笠原くんが受け取るわけないよ」


佐原さんがぽつりと呟いた読みは的中したみたいだ。


澄くんは


「いらない。俺甘いもん嫌い」



取り囲む女子たちにそう告げて、するりと輪から出ると、東くんと一緒に調理室を出ていってしまった。


遅れて「まって~!」と、女子たちが追いかけいく。



「ほんっと冷たい男。東くんの方が明るくていいよね」



佐原さんはそう言ってあたしを小突いた。

え?

いや、ちがう!


「だからあたし、東くんのことは!」


「わかってるって! ナイショね」


全然話を聞いてくれないから、ミナにだけはあとでちゃんと言っておこ。



ミナとサラとそんな話をしながら教室に戻って、ドアに入ってすぐ。



「色葉ちゃぁーん」



男子の大声に呼ばれて振り返ると、緑のネクタイをしめた男子が手を振りながら立っていた。



前にも一度教室に来て連絡先を教えてって言ってきた……三年生の青井先輩だ。



溢れる陽極のオーラに緊張が走って、手に握るポリ袋がくしゃっと揺れた。


「ちょっと色葉ちゃん借りてもいい?」


人懐こい笑顔で首を傾げられたサラとミナは、「ハイ喜んで!」とあたしを差し出した。



「え!? ひどい……」



「馬鹿! あ・の・青井先輩だよ? 行かなきゃ損!」


ミナは耳打ちしながらあたしの背中を押して「ファイト!」と笑った。



……ファイトじゃないよ……。

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