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ここから始まる物語

第10章 裏切り者

 言葉を詰まらせているのは、何もしていなかったからなのでしょうか。少なくともフォビスの中では、その時の自分のあり方を、王としてはふさわしくなかったと考えているのでしょう。
 フォビスが答える前に、またしても民衆が騒ぎ始めました。

「おまえは、そのまま帰ってしまったじゃないか!」
「この薄情者め!」
「おまえなんかに、王の資質はない!」

 そして声と同時に、民衆は石を投げつけ始めました。
 石はフォビスの頭に当たり、肩にぶつかり、身体中を打ちのめしていきます。
「やめろ! やめないか! 私は王だぞ!」
 言葉こそ強気ですが、フォビスはその場にうずくまって丸くなっています。その姿は、いじめられっ子そのものでした。
 石をぶつけられたのは、フォビスだけではありません。
 荷車に寝ているブロミアにも、石は投げられました。
 顔に石が当たり、鼻血がでます。それでもブロミアは、ほとんど表情を変えません。
「むうん」
 と唸り声を一度あげただけです。
 病のせいで、怒ったり避けたりするほどの元気が残っていないのでしょう。
 そんなブロミアを、フォビスが庇いました。
「やめろ! よせ! 父上にだけは手を出すな!」
 フォビスは荷車に覆いかぶさりました。
 あまりのことに、ピスティも民衆を止めようかと思ったのですが、フォビスの態度に驚いて、体が固まってしまいました。
 というのも、ピスティはフォビスのことを、自分のことしか考えない男だと思っていたのです。次の王に選ばれるために、父のブロミアにいい顔をしているだけだと思っていたのです。それが、身体を張って父を守っているではありませんか。フォビスにも、人を思いやる気持ちがあったということでしょう。

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