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第12章 罠からの脱出

 心配そうに目を潤ませている表情を見ると、やっぱり身体が固くなってしまいます。
「大丈夫だよ。きみに心配をかけてすまない」
 緊張を隠すために、ピスティは髪をいじりながらそう答えました。
「私、コーリーといいます」
「え?」
「名前です。コーリーとお呼びください」
「コーリー・・・・・・か」
 コーリーの身体からは、なんとも言えない良い香り漂っています。初めてあった時は、面倒くさい相手だと思いましたが、こうして夜の闇の中で、コーリーの声を聞き、姿を見ていると、なぜか、もっと近くに寄りたくなりました。鉄柵越しに話をすることの、なんと歯がゆいことでしょう。
「きみは――いや、コーリーは、今夜どこに寝るんだい」
 ピスティが尋ねると、
「実は、まだ父が許してくれないので家に帰ることができません。だから、どこへ行こうか迷っているんですけど・・・・・・」
 コーリーは俯いて、上目遣いにピスティを見るのでした。縋るような、何かを怖がっているようなその視線に、ピスティの身体は釘付けになりました。かわいそうな身の上だな、と思う一方で、なぜか嬉しい気持ちが湧いてきます。
「それなら仕方がない。今日は城へ泊まるといいよ」
「良いのですか?」
「内緒だよ。そのまま待っていてくれ」
 ピスティは門へ向かうと、門の内側から門番に言いました。
「今、鉄柵の前にいる女を中に入れてやってくれないか」
「かしこまりました」
 門番が答えるや、門がギイッと重い音を立てて、わずかに開きました。わずかな隙間しか開きませんでしたが、コーリーひとりが通るだけなら充分でしょう。
 ピスティは門から顔を出してコーリーを呼ぶと、さっきまでいた庭へ案内しました。

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