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ここから始まる物語

第12章 罠からの脱出

 身を任せていると、コーリーは、その澄んだ瞳から涙を零し始めました。涙は頬を伝い、顎の先から雫となって落ち、ピスティの手を濡らします。
 ピスティは不思議な気持ちになりました。今はピスティが励まされているというのに、ピスティの方が、泣いているコーリーを守ってあげたくなったのです。
「大丈夫だよ」
 ピスティは、思わずコーリーの身体を優しく抱きしめました。
 コーリーの身体は、柔らかくてしなやかで、豊かで暖かいものでした。
 そのまま、もっと強く抱きしめようとしたのですが、コーリーは、
「きゃッ」
 と声を上げたかと思うと、ピスティを押しのけてしまったのです。
「ごめん」
 ピスティは我に帰って、とっさに謝りました。が、コーリーは怒りませんでした。
「ごめんなさい。あまりにも急なことだったので」
 俯いたまま、顔を横に向けます。
「僕こそ、ごめんよ。びっくりさせてしまって」
 なんとも言えない安心感が、ピスティの胸に広がります。
 そして、庭へ出てきた時の気持ちを思い出しました。この、昼とは違う雰囲気の庭を、ひとりではなく、誰かと一緒にこの感じられたら、というあの気持ちです。
 その気持ちは、今、すでにかなっています。レナよりも、目の前にいるコーリーの方がよほど魅力的です。大人しくて美しくて、ピスティのすべてを包み込んでくれるような、海のような女性。
 コーリーをこそ、妻にしたい、という気持ちが湧いてきます。
「なあ、コーリー」
 その気持ちを伝えようとした矢先でした。
 コーリーの服の袂から、何かがするりと地面に落ちました。
 封筒でした。
 見覚えのある封筒です。
「この封筒は・・・・・・」
 コーリーが初めて城へ来た時に、帰り際に落とした封筒です。
「それは!」
 コーリーの態度が、いきなり変わりました。

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