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ここから始まる物語

第13章 怠惰と空虚の魂

 音と臭いが、どんどんと部屋へ近づいてくるのがわかります。
 今すぐここから逃げたい気持ちになりましたが、あいにく部屋の出入口はひとつしかありません。その出入口は、クリシーによって塞がれています。
 逃げられません。それに、戦うすべも、レナにはありません。
 不安に包まれていると、やがて、異様な集団が姿を見せました。
 背の低い、痩せ細った怪物の集団です。ひびの入った鎧を身につけ、刃のかけた槍や刀を持っています。暗がりですが、わずかな街の灯りに、彼らの灰色の肌と、ぎょろぎょろとした目つきが浮かび上がっています。
「さあ、神々よ――」
 クリシーは振り返って、集団と向き合いましたが、急に腰が砕けたように三歩ほどよろめきました。
「か、神々よ――そのような姿に成り果てていたとは・・・・・・。人間のなんと堕落したことか・・・・・・」
 クリシーの言葉は、レナには理解できませんでした。でも、絶望していることはうかがえます。
 しかしクリシーは気を持ち直したのか、声高らかに「神々」に向けて言いました。
「これなる堕落と空虚の象徴を葬りたまえ」
 そして、人差し指をレナに向かって突きつけました。
 レナは、息を飲みました。一瞬、呼吸が止まってしまったほどです。
 クリシーの命令とともに、神たちが、わらわらと群がってきます。
「やめて!」
 レナはベッドから飛び降りて後ろへさがりましたが、すぐに背中が壁に当たってしまいました。
 もう後にひくことはできません。それでも容赦なく、気味の悪い集団は迫ってきます。
 やがて、レナは、腕を引っ張られ、足をつかまれ、その場に転ばされてしまいました。
「いや!」
 暴れますが、抵抗できません。一体一体は小さくて痩せていて、レナでも簡単に倒すことができそうなのですが、それが集団となると話は別です。まるで蜂の群れに襲われているようなもので、どう暴れても集団を振り切ることができないのです。

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