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第17章 究極の二択

 心を喰っていた――それは、聞くにおぞましい言葉でした。
「心を喰われたら、どうなってしまうんだい」
「心を食われた人間は、もう喜びも悲しみも怒りもない。ただ本能にしたがって動くようになるの。欲しいものは奪って、邪魔なものは破壊し、気に入らない相手は殺す。この国に住む人たちは、あまりに多くの願いごとを叶えすぎたの。だから、その分私は気持ちが良くなって、人びとは心を失っていったはず・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
 信じられない話でした。
「でも、僕だって、レナに願いごとを叶えてもらったじゃないか。それなのに、どうして僕は心を喰われていないんだい。僕は喜びも悲しみもちゃんと感じられる。邪魔だからといって壊してはしまわないし、欲しいと思うものだって、人から奪い取るような真似はしないよ」
「そう。そこなの。私が気になったのは。どうしてピスティは大丈夫なんだろうって。でもね、それも答えがわかったの」
「どうしてだい」
「まずひとつは、ピスティが叶えた願いごとは、まだそれほど多くないっていうこと。それともうひとつ理由があるの。これが、私がいちばん言いたかったことなんだけど、私は、たぶん――」
 ピスティの心そのものなの――とレナは言いました。
「僕の、心だって?」
 その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかりました。
「そう。私は、きっとピスティの心なの。ほら、さっきも言ったでしょ。私には過去がないって」
「言ったけど、それが何だっていうんだい」
「私はたぶんね、ピスティが崖から落ちた瞬間に生まれたの。だから過去がないの」
「僕が落ちた瞬間・・・・・・?」
「そう。崖から落ちたピスティが『助かりたい』って思ったその瞬間に、私は生まれたの」
「なんだよ、それ・・・・・・」

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