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ここから始まる物語

第17章 究極の二択

 その間にも、外ではものが壊れる激しい音が響いてきます。それに、きっと、兵士と庶民がぶつかり合っているのでしょう。怒鳴り声が津波のように押し寄せてきます。
「しばらくは大丈夫だよ」
 ピスティはレナに囁きました。
「どうしたら、あの人たちを元に戻せるんだい」
「それは――」
 レナは息を飲み、そして言いました。
「今は、兵士の皆さんが武器で彼らを押さえ込んでいるようだけど、そうではなくて、彼らを抱きしめること。両手で優しく彼らの身体を包むこと。それで、あの人たちは元に戻るわ」
「どうしてそんなことで元に戻せるだ」
 ライは納得していない様子です。が、さっきまでのように身体を震わせてはいません。
「人間は心を失うと、獰猛になってしまうの。虎やライオンのように・・・・・・。でも、心を取り戻せば、欲をおさえて、人を思いやることができるようになる。そのためには、戦いではなくて、まずは友愛を示すことが必要なの。だから、抱きしめると元に戻すことができるのよ」
 なんとなく筋は通っているように思えます。ライも、鼻から少し唸り声を漏らしただけで、それ以上は文句を言いませんでした。
「それから」
 レナは、さらに続けました。
「まだあるのかい」
 ピスティの質問に、レナは声を出さずに、深く頷きました。

「あとは、私が死ぬことです」

 その一言には、さすがにみんなが驚いてしまいました。ピスティもフウもゲンも、そしてライも、みんな言葉を失っています。
「死ぬって、さすがにレナを殺すことなんてできないよ・・・・・・」
 ピスティはどんなに大変なことでも乗り越えてやる覚悟を決めていましたが、レナを死なせるなんてことはできません。すべては、レナを含めて王国全体を幸せにしたいと思っていたからです。

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