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ここから始まる物語

第18章 団結

 やがて、男は大人しくなっていきました。
「あ、あんたは・・・・・・」
 言葉が、頭の上から降ってきました。
 ピスティが顔をあげると、抱きしめている男が困惑気味な表情を浮かべていました。さっきまでのような凶暴さは、もう見られません。何より、もう目が赤くありません。
 男は、自分の持っている短剣を見て驚いたのか、
「わあッ」
 と声をあげて、短剣を投げ出しました。
「俺がきみをそんな目に遭わせてしまったのかい」
 男は慌てた様子で、ピスティの弱った身体をささえました。言葉使いから、どうやら、ピスティが王であることには気づいていない様子です。
 ピスティは庶民を装って、答えました。
「そうです。でも、いいんです。あなたが元の戻ってくれたことが、僕は嬉しいです」
「何を言うんだ。俺は今までどうにかしていたようだ。なんだか頭の中が怒りでいっぱいだったというか・・・・・・。でも、きみのおかげでなんだか癒された気がしたよ。子供をこんな目に遭わせてしまうなんて、俺は・・・・・・」
 男の腕は優しくピスティを包みこもうとしましたが、ピスティはそれをやわらかく断って、別の暴徒のもとへ向けて歩き始めました。
 そうして、ピスティは暴徒を一人一人を抱きしめ、元に戻していったのです。
 その時には、もう体はぼろぼろでした。服が破れるのは当たり前。身体は痣だらけ、傷だらけ、血まみれ。胸のあたりに鈍い痛みを感じるのは、おそらく骨が折れているからでしょう。
 それでもピスティは、暴徒を抱きしめるために、友愛の心を示すために、どんなに殴られても斬りつけられても、抱きしめ続けていったのでした。
 それでも、元に戻せたのは、たったの五人だけでした。

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